胃の病気とピロリ菌

ピロリ菌が発見されて以降、除菌療法が生まれ、胃の病気に対する予防・治療は大きく前進しました。
60歳以上で胃の不調を感じている方は、ピロリ菌について知っておくことが大切になります。



胃に感染する細菌

 ピロリ菌の正式名称は、「ヘリコバクターピロリ菌」です。
 ヘリコという言葉には、「螺旋」「旋回」といった意味があり、バクターは、「細菌」です。ピロリは、この菌がはじめて見つかった胃の出口(幽門)の名前、「ピロルス」からとられています。
 この名前が表わす通りピロリ菌は、螺旋状の身体を持ち、べん毛を回転させながら移動する性質がある細菌です。そして、胃の出口をはじめ、胃の粘膜を移動します。
 胃の粘膜は強い酸性をもつ胃酸を分泌するため、胃のなかに細菌類が存在するとは考えられていませんでした。
 なぜピロリ菌が強酸性の環境下で生きられるのかというと、この細菌は胃のなかの尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する性質があります。アルカリ性の物質であるアンモニアは酸を中和するので、アンモニアをまとってピロリ菌は生存することができます。



胃の粘膜が傷つき、病気が発症

 ピロリ菌を発見したのは、のちにノーベル賞を受賞する、西オーストラリア大学のロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授です。
 さらにふたりは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍を患っている100人の患者を調べて、そのほとんどすべての人にピロリ菌を見つけました。
 ところで、なぜピロリ菌が胃に悪影響を及ぼすのでしょうか?
 それは、ピロリ菌が移動するとき、べん毛の回転によって胃の粘膜を傷つけるためです。
 傷ついた粘膜が胃酸にさらされると、やがてそこに炎症を引き起こします。
 炎症が慢性化し悪化すると、粘膜の萎縮が起こり、胃がんへ進行するケースが生じます。



60歳以上の人に感染者が多い

 ピロリ菌の感染経路は、完全には解明されていません。
 ただ、これまでにわかっていることで、注意すべき点があります。
 それは、ピロリ菌の感染が、ほぼ幼少期(五歳以下)に起こることと、感染に衛生環境が大きく影響している点です。
 このため日本では、上下水道の衛生環境が十分ではなかった時代に幼少期を送った、60歳以上の方のピロリ菌感染率が高くなっています。
 現在、胃がんで死亡する人の数は、減少しています。その一方、胃がんを患う人の数は、増加しています。
 そこには、日本人の高齢化が影響していると考えられます。





重篤な病気を引き起こすことも

 ピロリ菌が関係している胃の病気はいくつかありますが、大きな病気は次の通りです。
〇萎縮性胃炎 慢性的な炎症によって胃粘膜が萎縮する。胃がんにつながることがある。
〇胃・十二指腸潰瘍 胃や十二指腸の粘膜が深く傷つき、えぐられたようになる。
〇胃MALTリンパ腫 胃に起こる悪性リンパ腫(血液のがん)。
〇特発性血小板減少性紫斑病 出血を止める役割をする血小板が減少する難病。
〇胃がん 胃の粘膜がなんらかの原因でがん化する。



感染しているか調べるには

 ピロリ菌が胃に存在するかを検査するには、「尿素呼気試験」が使われます。
 これは、診断薬の服用の前と後に呼気を採取し、ピロリ菌が作り出す二酸化炭素を測定する検査となります。
 身体への負担が少ないうえ、精度が高いことから、現在主流の検査方法となっています。
 そのほかにも、血液や尿検査、内視鏡を使用して胃の粘膜を採取して調べるなど複数の検査方法があります。




ピロリ菌の除菌療法

 ピロリ菌は、抗菌薬を飲む薬物療法により除菌することが可能です。
 基本的には、2種類の薬を1日2回、7日間服用します。このさい、胃酸の分泌を抑える薬を1種類が同時に使われます。
 この一回目の除菌では、75%の人がピロリ菌の除去に成功します。
 一回で除菌できなかった人でも、二回目を行なうことで95%の人が除菌に成功します。