実現してほしい!少し未来の医療の話

医療は日々進化しています。かつては、対症療法しかなかったインフルエンザも、2000年にリレンザが世にでて以来、開発が進み、昨年は一回服用するだけでウイルスの増殖を抑えるゾフルーザが処方薬のひとつに加わりました。医療の進歩は私たちに希望を与えてくれます。今回は普及・実現に向けて進められている少し未来の医療の話をご紹介いたします。

◎情報共有 【電子お薬手帳】

お薬手帳は、複数の病医院にかかる患者さんが、類似した薬の重複や、飲み合わせで副作用を引き起こすことがないよう、患者さんを守る大切な役割をしています。現在、国によって推進されているのが、お薬手帳の電子化です。複数の医療機関や薬局を訪れても、携帯電話に入れたお薬手帳のアプリや、ICカードを提示することで、医療従事者が、病歴・薬歴が把握できるようになります。医療情報が一元化されることで、患者さん自身も自分の薬の履歴が把握できたり、手帳を紛失しても薬の処方に支障が生じません。すでに電子化を取り入れている自治体もありますが、個人情報の問題など、全国への普及にはしばらく時間がかかるといわれています。


【通信遠隔診療】

離島や山間部、また居住地域の過疎化で、受診できる医療機関が限られる……。現在、地域による医療格差は深刻な問題です。そこで進められているのが「通信遠隔診療」です。都市部の総合病院などと連携して、テレビ電話のようにモニターを通して患者さんが専門医から問診を受けたりできるシステムです。また通信技術の進歩で鮮明な画像が送れるようになったため、診療所の医師と専門医が共に見ながら治療方針を相談することも可能になってきました。都市部でも在宅医療のニーズが増加しており、在宅で診察する医師をサポートする、通信遠隔診療の普及が今後の課題です。


◎進化するがん検診

【マイクロRNA】

バリウム検査やマンモグラフィー……がん検診には様々な検査があります。身体への負担を伴なうものもあり苦手な方も少なくないかもしれません。これがわずか0.3mlの血液を採るだけで済んだらどんなに楽でしょう。実は、そんな夢のような検診を実現すべく、現在研究が進められているのです。私たちの身体のなかにはマイクロRNAという物質が2000種類以上存在しています。マイクロRNAはがん細胞からも分泌されるため、血液で特定のマイクロRNAの増減を調べることで、ごく初期の段階でどこの臓器にがん細胞が発生しているかが見つけられるようになります。現時点では、13種類のがんを発見できることがわかっています。まだ、すぐに一般のがん検診に導入できるわけではありませんが、検査の精度を上げる研究が進められてますので、数年後、まずは人間ドッグなどから実施されるようになるかもしれません。

◎再生医療 【心筋シート】

重い心不全などの患者さんに対して、すでに実用化されている治療です。心臓は筋肉でてきているため、まず患者さんの足の筋肉から筋芽細胞を採取します。その細胞を培養して薄いシート状の組織を作成し、心筋の弱っている部分に貼り付けます。これによりシートが心臓に同化し、働きが回復するという成果がでています。現在は一歩進んで、iPS細胞から心筋のシートを作成し、ヒトへの実用化に向けて研究が進められています。足の筋肉の細胞より、心筋のシートのほうがより心臓になじみやすいからです。

【iPS細胞】

iPS細胞は京都大学の山中伸弥教授のグループが作成に成功した、「人工的に作られる、身体のどんな組織にもなれる幹細胞」のことです。iPS細胞は次のように作られます。 ①患者さんの身体から「体細胞」を採取する。 ②体細胞の遺伝子にレトロウイルスの遺伝子を組み込む。 ③この細胞を培養するとiPS細胞になり、患者さんに必要な組織が作成できる。 まだ少し難しいですね。例えば、肝臓移植を必要とする患者さんの身体から、正常な体細胞を取りだし。その細胞を「人工的に変幻自在の細胞に変えたもの」がiPS細胞です。そしてiPS細胞を肝臓の機能をもつように誘導すれば、健康な肝臓を患者さんに移植できるというわけです。このほか血液の成分を作成したり、新薬の開発など世界中の研究者によって様々な研究が進められています。iPS細胞の開発をはじめ、様々な医療技術の進歩は、病気で辛い思いをしている患者さんやご家族にとって希望の光となります。その一方で、人生や生命を意図的に操作できる領域にまで踏み込んでいます。皆、同じ価値観を持っていると考えがちですが、実は人それぞれ価値観は異なります。倫理観も同様かもしれません。人とは命とは個性とは何か?答えは出ずとも、私たち一人ひとりが自身で考え続けることも大切ではないでしょうか。